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別府ぅな侍
古本屋で買った「ガダルカナル」の本。
この本との出会いも偶然だった。
 
Page2 積み上げられた古本の中で

二月の末、今井は冨士見通りにある古本屋で太平洋戦争や戦前や戦後の人々の生活についての本を探していた。本が山積みされている小さな書店で今井は手に取っていくつかの本を見ていたが、積み上げられている本に隠れている棚の隅に「ガダルカナル 生き残った者の記録」という本を見つけた。手に取るとハードカバーからしてとても古く、最後のページを見てどこの出版社やいつごろ出版されたのか見ると、出版社は記述されることはなく昭和四十七年に出版されたということは書いてある。

――これは何だろう。

 今井はそう思い、始めから本を読み始めた。序文にはこの本がガダルカナル島の戦場で生き残った者が集まって一つの本を作ったことがわかってきた。読み進めていくうちに兵士たちの回想や従軍日記がこの中に入っていることがわけり、今井はレジに行って、これをいただけますか、と八十を過ぎたと思える白髪の店主に頼んだ。

「君は戦争のことに興味があるのかな」と老人は聞いてきた。
「そうですね」と僕は答え、少しの沈黙の後に逆に聞いてみた。
「おじいさんは戦争に参加したことはあるんですか?」
「私はないよ。でも、戦時中は満州の鉄道会社で働いていたんだよ。もう六十年も前の話だよ」
「満鉄のことですか」
「そうそう。2年ぐらいそこで働いて、戦争は終わった。それからソ連軍が来たり中国軍が来たり、そのおかげでお金が使えなくなって大変だった。お金が何回も変わってね」
「そうなんですね」

 今井は自分の生きている時代のことを考えた。食べるのにはそこまで困っているわけではない。工藤さんの貧困の時代の話、この老人の満鉄での経験、この本に書いてある兵士たちの死ぬような思いが書かれている経験。そんな時があったことを今は見る余裕も聞く余裕もその機会すら普通に過ごしている限りない。

 お会計はいくらですか、と今井はいい、お金を払った。本が落ちてきそうなぐらい積まれている古びた棚の間を老けて外に出ると、午後五時の夕日が冨士見通りに通る車と歩く人々を照らしている。今井は自転車に乗り、十号線を走り始めた。

 家に帰ってBEPPoo!!のML(メーリングリスト)を見ると管理人の矢崎が今後はいろんなことを企画する「特集」というコンテンツを設けるという。タイミングがいいな、と今井は思い矢崎に電話をかけた。

「のりちゃん、どうした?」とふざけた声を出すのはいつもの矢崎だ。
「ああ、パナマか。ちょっと話したいことがあるんだ」と今井と矢崎の変態的な声に呆れながらも話しかけた。
「うん?どうした?」
「実はな、四月におれが別府に帰ってきた後に別府で『戦争』をテーマに書きたいんだ。新しく特集というのをつくるだろ?」
「へぇー、いいじゃん。やってみたら?」
「そのつもり。まぁ、三月はシカゴに行ったり札幌に帰ったりするから、その間にいろいろ用意しておくよ」
「わかった。面白そうな企画だから、頼むよ、バイバイ、のりちゃん!!」

 そう言って電話が切れた。相変わらずキモいなぁ、と思いながら携帯電話をポケットにしまう。そして、僕は机の上に置いた買ったばかりの古い記録を空けた。「ガ島日記抄 旅団司令部 麻生貞敏」の書いたその当時の日記がここにはある。

「昭和十七年八月二十九日土曜 於ショートランド島」

 まずはそこから始まっている。

「四時煙突を爆破された駆逐艦帰る、五中隊の乗った駆逐艦だ。八中隊の乗った駆逐艦は無事也、七中隊乗艦の駆逐艦轟沈して全員死す、第二大隊砲も全員」

 日記を読み進めていくと、ため息が出てくるぐらい辛いジャングルの生活と戦闘が記述されていくことが読み取れる。

「九月二○日 日曜 五中隊有吉健、末永戦死、菊武、辻井、池田、山崎、木村元気也、唐芋を朝より掘りに行く米は一人一日一合渡る、椰子リンゴを食う塩分なく汗が出ても塩辛くない、海水を呑む海水にて芋粥を炊く、米飯を食わざる事六日目なり」
「一○月二十六日 月曜 晴 何にも食べず、食ふ事も考えず、二日目煙草なく、水又無し皆生米を食い藤カズラを切って僅かの水を飲む」

 今井は本を半分ぐらい読み終えて机に置いた。部屋の天井を見ながら、さて、これからどういう風にやっていこう、別府という土地で「戦争」をテーマにして何を書いて他人(ひと)に伝えることができるんだろう。しばらく今井はぼっとして、もう一度本を手にとり、パラパラと本をめくった。そこで見つけたのはこの本を書いたガ会のメンバーの名簿。

「そうか、ここからいろんな人に話が聞ける可能性があるな」

 名簿の中には別府出身者はいないようだが、今井は確実に何らかの名簿や手記、それに連絡先が別府市の図書館にあるだろうと思った。これだな、4月に帰ってきてすぐにやることは。それがこの企画の始まりだ。

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記者:今井紀明